大豆麹乳酸菌発酵液の特許
特許第4794486号「培地兼用発酵食品及びその製造方法」
平成23年8月5日登録
大豆麹乳酸菌発酵液の製法特許です。
特徴は液体大豆麹の使用にあります。
ヨーグルトは牛乳を乳酸菌で発酵させて作りますが、
豆乳を乳酸菌で発酵させた機能性食品も市場に多く出回っています。
しかしながら、乳酸菌のタンパク分解能は弱いので、ヨーグルトにせよ豆乳発酵食品にせよ、
牛乳タンパクのカゼインや大豆中のタンパクを乳酸菌が効率よく利用する事はできません。
乳酸菌に効率よく利用されるためには、これらのタンパクをアミノ酸にまで分解する必要があります。
開発にあたり、大豆に麹菌を接種し、
麹菌の強力なタンパク分解酵素で大豆タンパクを分解する事を考えました。
色々試した結果、蒸した大豆そのものに麹菌を接種して大豆麹にするよりも、
微粉末化した大豆を水溶液にして加熱滅菌し、
これに麹菌を接種して振蕩培養(しんとうばいよう:揺らしながら培養する方法)する方が
大豆タンパクの分解効率が良い事が分かりました。
このようにしてできた大豆麹を液体大豆麹と呼びます。
図-1は液体大豆麹中の大豆タンパク量とアミノ酸量(グルタミン酸量)を表したグラフですが、
培養日数に伴って大豆タンパク量は減少する一方で、アミノ酸量が増加するのが分かります。
液体大豆麹を窒素源として用いる事により、豆乳や牛乳では生育困難であった乳酸菌でも十分に発育する事が分かりました。
また、大豆には幾つかの種類のアレルゲンが報告されていますが、
麹菌による大豆タンパクの分解の結果、これらのアレルゲンも分解される事が分かりました(図-2)。
図-1: 液体大豆麹中の大豆タンパク量とアミノ酸量(グルタミン酸量)の推移 図-2: 培養に伴う大豆アレルゲンの消失
さらに、液体大豆麹の培養日数に伴って抗酸化性が増加する事も分かりました。
大豆麹乳酸菌発酵液の抗酸化能に関しては、「研究結果」の項に詳しく書かれています。
豆乳を作る際には大量の「おから」が生じますが、液体大豆麹では大豆を丸ごと用いるため、おからが全く生じません。
イソフラボンは大豆の胚軸部分に多く含まれるため、豆乳作製時には、多くのイソフラボンがおからとして廃棄されてしまいます。
大豆麹乳酸菌発酵液は、大豆の食物繊維分とイソフラボンが全て無駄なく使われています。
おからが生じないので廃棄物もほとんど生じる事もなく、環境にも優しい製品です。
論文紹介
中山雅晴、前沢留美子、腰原菜水、中村泰輝 「新規植物性乳酸菌健康食品基材の開発」
New Food Industry 2009, Vol. 51, 28-44
特許第4810483号「植物系乳酸菌を含む発酵食品」
平成23年8月26日登録
ヒトは誰でも高齢になると多かれ少なかれ血圧が高くなりがちですが、
高くなりすぎると高血圧症として心疾患や腎臓病などの原因となります。
テクノさかき研究室では、市販の漬け物の中からおよそ120種にのぼる乳酸菌を分離、同定し、
これらの中から血圧上昇を抑制する可能性のある乳酸菌を発見して、
リューコノストック・メゼンテロイデスKN34(Leuconostoc mesenteroides KN34)
と名付けました。
血圧を司るメカニズムには種々ありますが、
中でもレニン-アンジオテンシン系による血圧上昇メカニズムは重要です(図-1)。
この図から、アンジオテンシンⅠ転換酵素(ACE)の働きを阻害すれば、
アンジオテンシンⅠがアンジオテンシンⅡに転換されなくなる事が分かります。
アンジオテンシンⅡがアンジオテンシンⅡAT1レセプターと結合する事によって血管平滑筋が収縮し、
血圧が上昇しますので、ACEを阻害する事によって結果的に血圧上昇を抑制できる事が分かります。
テクノさかき研究室では、まず始めに、
乳酸菌の培養液にACEの働きを阻害する働きがあるかどうかを調べる実験を行いました。
図-1: レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の血圧上昇メカニズム
120種の乳酸菌を大豆麹乳酸菌発酵液の培地に接種~培養した後、上清を分離、これをACE活性阻害試験と呼ばれる試験に供したところ、
リューコノストック・メゼンテロイデスと呼ばれる乳酸菌の多くの株の培養液中にACEの働きを阻害する活性がある事が分かりました。
その中で最も活性の高かった株として、リューコノストック・メゼンテロイデスKN34株を選びました(図-2)。
図-2: リューコノストック・メゼンテロイデス菌のACE阻害活性
この菌の培養液が
本当に血圧上昇を抑制できるのか、
ネズミを使って実験しました。
SHRラットというネズミは
成長するに従い自然に血圧が上昇するラットで、
高血圧の実験でよく用いられます。
このネズミに
リューコノストック・メゼンテロイデスKN34で発酵させた
大豆麹乳酸菌発酵液の上澄み液を飲ませ、
血圧を測定しました。
対照として、
ただの水を飲ませたグループと、
カプトプリルというACE阻害薬を飲ませたグループを
用意しました。
その結果、
KN34の培養液を飲ませたグループの血圧は、
水を飲ませたグループの血圧に比べて最高~最低血圧共に減少し、統計学的にも有意差がありました(図-3)。
リューコノストック・メゼンテロイデスKN34は、大豆麹乳酸菌発酵液で用いている6種類の乳酸菌の一つです。
論文紹介
中山雅晴、前沢留美子、腰原菜水 「大豆麹乳酸菌発酵液で用いられる植物性乳酸菌2種の紹介」
New Food Industry 2013, Vol.55, 7-17
特許第5204986号「植物系乳酸菌の使用方法及びその植物系乳酸菌を含む医薬品及びそれらの製造方法」
平成25年2月22日登録
ヒトの免疫系は極めて複雑かつ精巧なシステムの上に成り立っています。
ヘルパー細胞と呼ばれるT細胞にはいくつもの種類があり、
これらの相互のバランスによって免疫系全体のバランスが保たれている事が分かっています。
例えば、Th1細胞が優位に立つとNK細胞やキラーT細胞などが活発化する一方で、
Th2細胞が優位に立つとB細胞が活発化し、
病原菌やウイルスなどの外敵に対する抗体がより盛んに産生される、という具合です。
前者を細胞性免疫、後者を液性免疫と呼びます。
すなわち、Th1細胞が優位に立つと細胞性免疫が活発化し、
Th2細胞が優位に立つと液性免疫が活発化する、というわけです。
NK細胞やキラーT細胞はガン細胞を攻撃する能力がありますので、
細胞性免疫が活性化するとガンを抑制する効果が増加する事が期待されます。
Th1細胞やTh2細胞だけでなく、Th17細胞やTreg細胞も、このバランスに重要な役割を果たしています。
従いまして、バランスといってもシーソーの上で平衡を保つような単純なものではなく、
大きなゴムまりの上に乗せた板の上でバランスをとる曲芸師のようなものかも知れません。
衛生仮説や旧友仮説によれば、
現代の先進国の生活環境は余りにも衛生的に過ぎると同時に出生時から抗生物質が多用されるために腸内細菌叢の多様性が損なわれ、
免疫系が刺激される機会が減少し、その結果、免疫系の成熟に大きな影響を与えていると考えられています。
未成熟な免疫系はわずかな外部刺激に対しても過剰に反応しますので、
その結果、即時型アレルギー症状が増加している可能性を指摘する多くの報告があります。
従いまして、余りに衛生的な環境が結果的に即時型アレルギーを増加させている可能性があります。
Th1/Th2細胞バランス説によれば、液性免疫が亢進すると細胞性免疫が抑制されると考えられますので、
即時型アレルギーが増加しつつある現代人の間では、どちらかといえば、細胞性免疫系が抑制されがちな状況である可能性があります。
細胞性免疫系が抑えられがちとなりますとNK細胞やキラーT細胞の働きが鈍くなりますので、
ガン細胞に対する防御系も弱体化する可能性があります。
現代のような過剰に衛生的な環境を昔に戻せば免疫バランスも元に戻るのかも知れませんが、
現代の生活環境を昔ながらの不衛生な環境に戻す事は、現実的とはいえません。
幼い頃から細菌の菌体に暴露するような環境に育った子供達には即時型アレルギーが少ないという衛生仮説に着目し、
悪玉菌では無く、乳酸菌のような善玉菌を摂取する事で免疫系のバランスを整え、
液性免疫に傾きがちな現代生活を細胞性免疫方向に戻すというアイデアが生まれました。
Th1系の細胞群、NK細胞やキラーT細胞を活性化する乳酸菌を発見し、これを摂取すれば、液性免疫に傾いた免疫バランスを整え、
結果的にガンの抑制効果も高まる事が期待されます。
以上の発想に基づいて、
日本全国の漬け物から分離、同定されたおよそ120種の乳酸菌から、細胞性免疫を亢進する乳酸菌株の選抜を試みました。
始めに、120種の乳酸菌培養液を加熱滅菌し、死菌体を得ました。
これらをマクロファージの細胞株に接種し、培養液中のIL12サイトカインの産生を指標として選んだところ、
ラクトバシラス・クルバータス KN40(Lactobacillus curvatus KN40)という乳酸菌株に強い活性がある事が分かりました(図-1)。
IL12はNK細胞を活性化するサイトカインですので、ラクトバシラス・クルバータスKN40の加熱死菌体がIL12の産生を刺激するのであれば、
これをネズミに投与すればネズミのNK細胞活性が上昇するはずです。
そこでKN40の死菌体をマウスの餌に混ぜて与えたところ、菌体量に比例してマウス脾臓のNK細胞が活性化する事が分かりました(図-2)。
NK細胞が活性化すると
ガン細胞への抑制効果が高まる事が期待されますので、
これを証明するために、
皮膚ガン細胞の転移抑制実験を行いました。
マウスの尻尾の静脈から皮膚ガン細胞を注射すると
ガン細胞は血流に乗って肺に達し、
そこで多くのガン細胞塊を形成しますが(写真)、
NK細胞が活性化しているときは、活性化の程度に応じて、
肺のガン細胞塊の数が少なくなる事が知られています。
ラクトバシラス・クルバータスKN40の菌体を混ぜた餌をマウスに食べさせた結果、
菌体量に比例して、肺に転移したガン細胞塊の数が減少する事が分かりました(図-3)。
従いまして、ラクトバシラス・クルバータスKN40を摂取する事によって細胞性免疫が活性化し、その結果ガンの転移が抑制されたと考えられます。
このラクトバシラス・クルバータスKN40も、大豆麹乳酸菌発酵液で用いている菌の一つです。
論文紹介
中山雅晴、前沢留美子、腰原菜水 「大豆麹乳酸菌発酵液で用いられる植物性乳酸菌2種の紹介」
New Food Industry 2013, Vol.55, 7-17
特許第5210299号「乳酸菌を用いた抗変異原性物質の生産方法」
平成25年3月1日国内
426 B2 "METHOD FOR PRODUCTION OF ANTIMUTAGENIC SUBSTANCE USING LACTIC ACID BACTERIUM"
May 14, 2013 米国
肉や魚などを高温で調理すると、
ヘテロサイクリックアミン(HCA)という強力な発ガン物質が生じます。
1970年頃までは大腸ガンは日本人には少なかったのですが、
その後の生活の向上に伴って大腸ガンが急激に増加して来ました。
原因としては、
食の欧米化に伴う食肉量の増加が最も直接的な原因であると
考えられています。
肉食では殆どの場合加熱調理して食べるのが一般的ですが、
中でもバーベキューや朝鮮式焼き肉など、
直火による調理ではHCAが生じやすい事が証明されています。
焼き肉中に生じるHCAの量はごく僅かですので、
たまに焼き肉を食べる程度でしたらほとんど問題は無いと思われますが、
欧米諸国のように食肉の消費量の割合が高い国々では、
取り込まれるHCA量も相応に高いと考えられます。
そして実際、
これらの国々では大腸ガンの罹患率が顕著に高くなっています(図-1)。
図は古いデータに基づいているようですので、
日本の大腸ガン罹患率は現在ではもっと高いと考えられます。
HCAが生体内に取り込まれると、
代謝を受けた後に細胞DNAに損傷を与える物質に変化します。
DNAに損傷を受けた細胞の中には、その後にガン細胞に変異するものが生じます。
HCAのようにDNAに損傷を与えて細胞の変異を引き起こす物質の事を、
変異原物質と呼びます。
実験室レベルでの研究では、
HCAは極めて少量で非常に大きな変異を細胞に与える事が分かっています。
また、動物の種類にもよりますが、HCAを餌に混ぜて与えると、
実際に大腸ガンなどを引き起こす事が証明されています。
実験室レベル、あるいは動物実験では、
乳酸菌がHCAの発ガン性を抑制する結果が多数報告されています。
報告された文献からHCAに対する乳酸菌の抑制メカニズムを調べてみると、
乳酸菌の菌体が消化管でHCAを吸着し、
その後に糞と共に排出される結果、HCAの吸収を妨げるという説が主流です。
しかしながら、この説には多くの弱点があります。
ここでは詳しい議論は避けますが、テクノさかき研究室では世界に先駆けて、
乳酸菌がHCAの変異原性を無害化する物質を菌体成分として保持している事を証明し、
その物質を乳酸菌菌体から抽出する方法を考案して、
日本国内と米国の特許を取得しました。
HCAに対する抗変異原作用を有する物質を菌体成分としてより多く保有している菌として、
ラクトバシラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum) KK1532とKK2503株を
糠漬けの糠床から分離しました。
両者とも大豆麹乳酸菌発酵液に使われています。
論文紹介
Nakayama M, Maezawa R, Koshihara N, and Nakamura Y. Evidence suggesting that a soluble factor majorly contributes to the antimutagenic property of lactic acid bacteria against the heterocyclic amine, 2-amino-3,4-dimethyl-3H-imidazo[4,5-f]quinoline Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria 2008, Vol. 19, 160-164
特許第3981472号「嫌気性菌の培養方法」
平成19年7月6日登録
喜源バイオジェニックス研究所の前身の「喜源バイオ研究所」時代にとった特許です。
ビフィズス菌などの嫌気性菌は、一般に培養が困難です。
研究室において研究目的で使用される培地では
色々な物質を加えて嫌気度を維持する事が可能ですが、
ヒトが食する目的で作られる培地では
食するにあたって不適切な物質を培地に加えてはなりません。
喜源バイオ研究所では、大豆を用いた培地にコーンスターチなどのゲル化剤を加える事によって、
食するに安全、かつ研究目的で用いられる培地と同程度の嫌気度を達成する事に成功しました。