本来あるべきヒトの生活
衛生仮説や旧友仮説が正しいと仮定した上で、
あえて「本来あるべきヒトの生活」とは何か?
を考えてみたいと思います。
狩猟採集生活では、
獲物を獲ったり木の実などを採取するために野山を駆け回るので、
食から得られたエネルギーの多くは次の餌取に費やされます。
従いまして、運動量も十分で、太る事もありません。
また、採取する食物は自然から得られるものであり、
そのまま体内に取り込みますので、
多くの場合ビタミン類にも不足はありません。
糖や脂肪、塩分の過剰摂取も無いので、
生活習慣病とは無縁の生活です。
現代人も、
キャンプや潮干狩り、魚釣り、ブドウ狩りやキノコ狩りなどの野外活動を行います。
これらの野外活動はとても楽しいものですが、なぜこれらの行動はヒトに楽しさをもたらすのでしょうか?
魚も貝もブドウもキノコもスーパーマーケットで買えば済む事です。
よく考えますと、これらの野外活動は狩猟採集民の日常生活そのものです。
ことによると、野外活動の楽しさは、ヒトの遺伝子に深く刻印されているのかも知れません。
「ヒトの言語能は、狩猟活動時に必要な連携プレーのために発達した」との説もあります。
ストレス病とは無縁の狩猟採集の時代には、「ブルーマンデー」という言葉は、当然ありません。
狩猟採集時代では、生まれた子供は産道を通過してただちに母乳が与えられますので、
ビフィズス菌を始めとする母親からの腸内細菌群はそのまま赤ん坊に引き継がれます。
衛生的には「それなりの」環境ですので、「それなりの」寄生虫やウイルスなどにも感染する事となるでしょうが、
その結果、赤ん坊の免疫系が刺激を受け、発達が促されると思われます。
兄弟数も多かったでしょうから、その後も長らく免疫学的な「切磋琢磨」に曝されていた事でしょう。
アトピーなどのアレルギー疾患や、自己免疫疾患も少なかったと考えられます。
しかしながら、狩猟採集民は現代病には無縁でしょうが、他の病気やけがに縁が無いわけではありません。
それどころか高い乳児の死亡率に加えて平均寿命は大幅に低く、自然の思惑のままに流される日々ですから、
お天気次第で、運が悪ければ部族全滅の憂き目にあう事すらあるでしょう。
加えて、他部族との交戦や部族内でのもめ事なども当然あるでしょうから、必ずしも完全にストレスフリーな生活を送っていたわけではありません。
ある意味、人類は、このような自然任せの日々から如何に脱却すべきかを模索した結果、現在があるのだと思います。
飢えの恐怖から解放され、子供の死亡率も改善された結果、平均寿命も大幅に伸びました。
しかしながら、これだけ大きく環境が変化したにも関わらず、現代人の遺伝子は、基本的に狩猟採集時代のそれを引き継いでいます。
その結果、逆説的ではありますが、現代病に悩まされるようになったわけです。
それでは現代人はどうするべきでしょうか?
先進諸国の現代人が謳歌する豊かさをそのままに、本来であるなら自然に負うべき負荷を人工的に作る必要があると思います。
こう書くと非常に抽象的ですが、分かりやすくいうと、これまでは必要に迫られて行っていた事を現代では意図的に行う必要がある、という事です。
本来ならば獲物を追って何キロも走ったり歩いたりする生活が普通でしたので、
代わりに意図的にジョギングやウオーキングを行って人工的にエネルギーを消費し、
足腰を鍛える必要があります。
本来ならば男は山に狩りに行き、
女は野原で食草を摘んだり海辺で貝を採ったりするのが仕事だったわけですが、
現代ではオフィスに缶詰になり、何時間も椅子に座りっぱなしで仕事をしたり、
外回りで取引先に愛想笑いを振りまかなくてはなりません。
ストレスが溜まりますので、意図的に野外活動に勤しむ事で精神を解放すべきです。
本来ならば各家庭ごとにお産をし、赤ん坊は母親の産道を通って世に出てくるわけですが、
現代では殆どが病院で出産し、帝王切開で生まれてくる赤ん坊も増えています。
帝王切開の場合は産道由来の乳酸菌やビフィズス菌などに暴露する機会が失われますので、
その後の腸内細菌の構成に大きな影響が出てくる可能性も否定できません。
免疫系の成熟は運動やレクリエーション活動などによっては達成できませんので、
他の形で発達を促さなくてはなりません。
運動や野外活動を増やし、糖や脂肪、塩分の過剰摂取を控えるといった事は、
その気になれば、少なくとも原理的には、可能だと思います。
しかしながら、糖や脂肪、塩分そのものが狩猟採集時代には得難いものであった事から、
ヒトは生まれつきこれらに対して非常に強い嗜好性を有しています。
現代の先進諸国においては、糖、脂肪、塩分の多いスナック菓子が安価かつ大量に流通しており、実際問題として、
これらの誘惑を断ち切る困難さがあります。
また、現代の食材そのものが、品種改良によって狩猟採集時代のものとは大きく様変わりしており、
より甘く、より柔らかく、より脂肪がついたものが多数を占め、白米の例に見られるように、「えぐみ」や「苦み」を排除した結果、
ビタミンその他の微量栄養素に欠けるものが多く出回るようになりました。
さらに、現代の企業活動の中で、運動を増やして過食やアルコールの摂取量を控える事に大きな困難を抱える企業戦士も大勢います。
免疫系の発達を促すために赤ん坊をわざわざ不衛生な環境にさらすわけにもいきませんし、
この目的のために兄弟の数を増やす事も現実的ではありません。
いったいどのようにしてこれらの問題を解決していけば良いのでしょうか?
ここに食の重要性が潜んでいます。