メタボリックシンドローム抑制機能
メタボリックシンドロームは過食と運動不足の組み合わせで生じる病気です。
過食においては、特に糖、脂肪、食塩の取りすぎが原因です。
従いまして、
これらの摂り過ぎに注意し、日常的に適度な運動を行っていれば
メタボリックシンドロームはほとんど発症しないのですが、
これがなかなかできないのが現代に生きるヒトの常という事なのでしょう。
メタボリックシンドロームとして診断されるには、
肥満度(BMI)が基準値以上である事の他に、
糖尿病、高血圧、あるいは高脂血症の中の二つを伴う必要があります。
糖の取りすぎは肥満につながるだけでなく、糖尿病の原因ともなります。
最近では絶対量だけで無く、食材の違いによる糖や炭水化物の消化吸収速度も問題になっています。
すなわち、消化吸収速度が早い食材の場合は急激に血糖値が上昇しますので、しばしばインスリンによる血中からの糖の排除が追いつかず、
長時間にわたって血中に糖が留まる事となるため、インスリンの産生が疲弊し、糖尿病の危険が増す、という考え方です。
このような考え方から見た場合、ほぼ純粋な糖や炭水化物で構成されている食材、
即ち砂糖を多く含む清涼飲料水やケーキ類、ご飯やうどん、パンやスパゲッティーなどは注意が必要となります。
ご飯などはやはり一気にかき込むのでは無く、おかずを食べながら、しっかりと咀嚼しつつ、ゆっくり時間をかけて食べるのが良いのかも知れません。
最近では糖質制限ダイエット法が注目を浴びています。
急激な血糖上昇につながる白米やパン、糖分の多い清涼飲料水などを控え、
その代わりに等分のエネルギー量を含む肉や魚、脂肪で置き換えようと言う方法です。
この場合は血中のブドウ糖上昇が抑制され、その代わりにケトン体と呼ばれる物質が増加します。
ケトン体は脂肪が分解される時に発生する物質で、ブドウ糖と同様にミトコンドリアでエネルギー源としてATPの産生に用いられます。
糖尿病は飽くまで血中のブドウ糖によって引き起こされますので、
この方法は糖尿病患者、あるいは糖尿病予備軍の方々の食事法としては十分に価値が有る方法です。
一方で、運動選手の食事量は普通のヒトと比べてより多いはずですが、
一部のお相撲さんを除き、運動選手が糖尿病になったという話はほとんど耳にしません。
特にマラソンなどの長距離を走る選手は、大会前には大量の炭水化物食をとると言われています。
もちろん長距離選手は糖尿病とは最も遠い関係にあるヒト達です。
また、現代のような副食が豊富な以前には、一升飯を食べて肉体労働に精を出していたのが日本人ですが、
糖尿病は昔の一般的な日本人には稀な病気でした。
このような事実を見れば、ご飯が大好きなヒトでもしっかりと運動をしていれば全く問題ないと思います。
一方で、2015年10月、国際がん研究機関であるIARCは、
ハム、ソーセージのような加工肉と牛肉、豚肉のような赤身肉の
長期にわたる過剰摂取が発ガンを誘発する可能性に対して、
危険度のレベルを引き上げました。
加工肉に到っては、何と、アスベストと同じレベルの扱いです。
従いまして、
糖質を制限する代わりに肉や脂肪の量を増やすという戦略は、
「糖尿病は避けられたが大腸ガンになってしまった!」
という結果をもたらす可能性も否定できません。
また、最近では、終末糖化産物
(advanced glycation end products、AGEs、エイジス)
による糖尿病発症~増悪への関与が
問題視されるようになってきました。
AGEsの一つであるカルボキシメチルリジン(CML)は、肉など、脂肪を多く含む食材の加熱調理によって発生します。
以上を考え合わせると、単純に炭水化物を避けて肉を食え、というのは短絡的に思えてきます。
加えて、肉や脂肪の過剰摂取が腸内環境に及ぼす影響も気になります。
また、日々の頭脳労働~肉体労働でお疲れの方々にとってみれば、過度な炭水化物制限が心臓に与える影響も見逃せません。
血流中のブドウ糖量が少ない状態で無理に仕事を行うと、心臓は少ないエネルギーを体全体に供給するために、
心拍数を上げて普通以上に働かなくてはなりません。
この時さらにカフェインを強化したスタミナ飲料を飲んで効率をアップさせよう!などと企むと、心臓にさらなる負担を与える事となり、
突然死の原因ともなりかねません。
糖尿病患者~予備軍ではない健常者一般にとってみれば、結局は、
糖や炭水化物、肉や脂肪も、長期的な過剰摂取を避けてバランス良く食べ、適度な運動を行うのが一番!
というあたりまえの結論に帰着するかと思います。
ユネスコ文化遺産に登録された事もあって、最近では世界中で和食ブームです。
盛りつけの美しさなどと共に、栄養バランスの良さもまた和食人気の一つです。
しかしながらただ一点、食塩の使用量が高い事が和食の欠点にあげられます。
食塩の過剰摂取は血液の浸透圧を高め、血管圧を恒常的に高める結果、高血圧に結びつくと考えられます。
食塩はヒトが生存するのに必須の成分ですが、
これの過剰摂取は高血圧だけでなく、胃ガンや腎臓病などの原因の一つにもなります。
日本人が1日に摂取する食塩の量は平均で9~11gにも達するといわれていますが、
およそ3g程度も摂れば十分に足りると考えられています。
さすがに普通の日本人にとって食塩の1日の摂取量を3gに減らす事は現実的ではありませんが、
高血圧予防の「始めの一歩」として、まずは食事中の塩分量に対して意識する事が大切だと思います。
一方で、NaCl100%の「食卓塩」ではなく、天然の塩などでは「塩害」は余り問題にはならない、という意見も見られます。
これらの天然塩には、ナトリウムの他にカリウムやマグネシウム、カルシウムが豊富に含まれますので、
これらがナトリウムの害を拮抗的に抑制している可能性があります。
天然塩を使うと味がまろやかになる、とも言われますので、食卓塩の代わりとして、より積極的に使うべきかも知れません。
世界的な和食人気の一方で、戦後の日本では西欧の食文化の影響を強く受けて肉や乳製品の消費が急激に増加しました。
特に働き盛りの人々にとって肉食はスタミナの元ですので、ついつい脂肪分も摂りすぎの傾向にあります。
メタボに見られる高脂血症の原因の一つは脂肪分の多い食肉の過剰摂取にありますが、
食肉由来の脂肪には飽和脂肪酸が多い事が問題です。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いは、前者は分子構造の中に二重結合が無く、後者は二重結合が一つ以上あるという事です。
その結果、飽和脂肪酸は常温において固体となり、不飽和脂肪酸は液体となります。
生体の細胞膜は、主にリン脂質と呼ばれる物質で構成されています。
リン脂質の脂質部分は食物などから摂取した脂肪酸によって構成されていますので、
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の摂取量の比率が反映される事となります。
従いまして、常温で固体である飽和脂肪酸の摂取率が高いと細胞膜の流動性が損なわれ、組織全体の柔軟性が失われがちとなります。
これが血管壁で生じますと、動脈硬化、高血圧、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となってしまいます。
一方で、細胞膜は適度な強度も必要ですので、不飽和脂肪酸の過剰摂取もまた問題です。
不飽和脂肪酸の過剰摂取は出血を引き起こす可能性が高くなる事が指摘されていますので、
結局の所、何事もバランス良く摂るのが最善、という結論に到ります。
働き盛りの間は仕事上のストレスも多く、これを克服するためについつい食事量が増えがちです。
加えて忙しくて運動する暇も無い程に仕事に追われる現代のストレス社会もまた、メタボリックシンドロームの原因の一つといえるでしょう。
メタボリックシンドローム抑制機能を持つ食物成分
高血糖抑制機能
糖の吸収を抑える機能をもつものとしては食物繊維が代表的です。
食物繊維にも色々な種類がありますが、野菜のセルロースに代表される不溶性の食物繊維の他にも、
コンニャクや寒天を形作る水溶性の食物繊維、芋や豆に存在する難消化性デンプンなどに、糖の吸収速度抑制作用が認められています。
従いまして、
白米の代わりに玄米や雑穀、パンやうどんの代わりに芋や豆などから炭水化物を摂取する方が糖尿病予防には効果があると思われます。
大豆麹乳酸菌発酵液は皮付き丸大豆を丸ごと使用すると同時に麹菌の菌糸体もそのまま入っておりますので、
食物繊維の割合が非常に高く、およそ2%にも達します。
これは液体状の食品としては破格に高い値であり、リンゴやミカンなどの果物に含まれる繊維分よりも多いほどです。
高血圧抑制機能
高血圧抑制作用を持つ食物成分としては、タンパク質の分解から生じるある種の低分子ペプチドがあります。
高血圧を引き起こすメカニズムにはいくつかの経路がありますが、ここではレニン-アンジオテンシン系について簡単にお話致します。
交感神経が興奮したり、あるいは血圧が必要以上に低下したりすると、腎臓からレニンと呼ばれる酵素が分泌されます。
レニンは肝臓でアンジオテンシノーゲンと呼ばれる物質を分解し、アンジオテンシンⅠに転換します。
アンジオテンシンⅠはアンジオテンシン転換酵素(ACE)によってアンジオテンシンⅡに転換され、
この物質が血管平滑筋にある受容体に結合すると、血管壁が収縮し、血圧が上昇します。
従いまして、レニン-アンジオテンシン系のどこかをブロックする事によって過剰な血圧上昇を抑える事が期待できますので、
医薬品でもこの経路を遮断する薬が高血圧治療の第一選択肢となっています。
食品由来の低分子ペプチドのいくつかに、レニン-アンジオテンシン系をブロックする作用が報告されています。
これまで報告されているものでは、
牛乳カゼインタンパクをある種の乳酸菌で分解したもの、
カツオなどの魚肉を酵素処理したものなどがあります。
大豆麹乳酸菌発酵液の抗高血圧作用もまた、
リューコノストック・メゼンテロイデスKN34乳酸菌(Leuconostoc mesenteroides KN34)
の発酵作用によるものです。
GABA(γアミノ酪酸)は、
レニン-アンジオテンシン系の上流を抑制する事によって血圧抑制作用を発揮する食物成分です。
GABAは、腎臓につながる交感神経の興奮を抑制する事によってレニンの分泌を抑え、
その結果、血圧上昇を抑制すると考えられています。
GABAを多く含む食品としては、トマトやミカン、発芽玄米などがありますが、
ある種の乳酸菌はグルタミン酸からGABAを合成する事ができますので、
このような乳酸菌を用いた発酵食材を摂るのも良い方法です。
大豆麹乳酸菌発酵液と大豆ペプチド乳酸菌発酵液には、
ラクトコッカス・ラクチスKN1乳酸菌(Lactococcus lactis KN1)によって作られた
GABAが高濃度に含まれています。
特に大豆ペプチド発酵液には多く含まれています(下の表)。
高脂血症~高コレステロール抑制機能
高脂血症や高コレステロール血症を抑制する食材としては、やはり食物繊維が第一に上げられます。
作用機序としては、糖の場合と同じく、脂肪やコレステロールを小腸で絡め取る事によって吸収を阻害するためと考えられています。
大豆タンパクにも高コレステロール血症抑制が報告されています。
その機序は、胆汁酸の再吸収を抑制するためと考えられています。
胆汁酸はコレステロールを原料として肝臓で作られ、食物中の脂肪の消化を助ける働きをしますが、小腸に分泌された後、
大部分が小腸下部で再吸収されてリサイクルされます。
大豆タンパクは小腸で胆汁酸を結合する事によって胆汁酸の再吸収を抑える働きがありますので、その結果、体全体のコレステロール量が減り、
高コレステロール血症の予防につながると考えられています。
吸収阻害以外の機序で高コレステロール血症を予防する食物成分としては、大豆イソフラボンやお茶のカテキン類などがあります。
大豆イソフラボンの高コレステロール血症予防の機序としては、肝臓のLDL受容体活性化作用が考えられています。
LDLとは、いわゆる悪玉コレステロール複合体の事です。
LDL受容体は血中の悪玉コレステロールを肝臓に輸送する窓口となりますので、
これが活性化すると血中の悪玉コレステロールの濃度が減少します。
一方で、最近では従来の「コレステロール悪玉説」の見直しも唱えられています。
悪玉コレステロールと考えられてきたLDLと善玉コレステロールのHDLですが、近年では両者とも生体の恒常性維持に必要である、
と見直されつつあります。
高脂血症予防としては、
体脂肪燃焼効果が期待される食物成分として
トウガラシのカプサイシン、アミノ酸の一種であるL-カルニチン、
お茶のカテキン類などが報告されています。
カプサイシンは交感神経の興奮を促す事によって、
脂肪組織中に存在する褐色脂肪細胞を活性化します。
褐色脂肪細胞は脂肪の燃焼を促す働きをする細胞ですので、
その結果、体脂肪の減少効果が期待されます。
L-カルニチンは山羊や羊肉に多く含まれ、
脂肪酸をミトコンドリア内に運搬する働きをします。
ミトコンドリア内に運ばれた脂肪酸はエネルギーに転換されますので、
結果的に脂肪の燃焼につながる事が期待されます。
山羊肉料理は「精が付く」といわれて
沖縄では伝統的によく食べられて来ましたが、
精が付くのはL-カルニチンのせいかも知れません。
カテキン類は、脂肪をエネルギーに転換する際に働く酵素群の活性を高める事により、脂肪燃焼に働くと考えられています。
大豆麹乳酸菌発酵液をマウスの餌に混ぜて長期間与えると、
高血糖、高脂血症、そして高コレステロールの抑制傾向が生じる事が分かってきました。
今後の研究課題の一つです。
メタボリックシンドロームに関する参考文献
●食と健康-Ⅰ 日本栄養・食糧学会 1996 学会出版センター
●食と健康-Ⅱ 日本栄養・食糧学会 1996 学会出版センター
●図解生理学 1981 医学書院
●医学の歩み-高血圧のすべて Vol.202 2002 医歯薬出版
●医学の歩み-高脂血症と動脈硬化 馬渕宏編 2002 医歯薬出版
●医学の歩み-糖尿病 吉川隆一編 2003 医歯薬出版
●医学の歩み-動脈硬化UPDATE Vol.221 2007 医歯薬出版
●医学の歩み-メタボリックシンドローム時代の糖尿病研究の最前線 戸辺一之編 2007 医歯薬出版
●実験医学-肥満症 梶村真吾、箕越靖彦編 2016 羊土社
●糖尿病と酸化ストレス 山岸昌一編 2011 メディカルレビュー社
●ケトン体が人類を救う 宗田哲男 2015 光文社