抗酸化機能
活性酸素のお話
ヒトは食物から糖分を取り込み、
これをエネルギー源として用いますが、
このとき酸素が必要です。
具体的には、細胞のミトコンドリアで、
糖と酸素からATPと呼ばれる「エネルギーの通貨」を作ります。
このATPを利用して細胞は生命活動を営みますが、
ATPを作り出すときに使われる酸素のうち、
およそ2%位が活性酸素として放出されると考えられています。
活性酸素はガンの原因となったり、
肌の老化の原因となったり体全体の老化を早めたりなど、
ヒトの健康、美容、寿命に悪影響をもたらす原因として
よく知られています。
しかしながら、活性酸素はヒトの体の中で重要な働きもしています。
例えば、免疫細胞の一種である好中球は
病原菌などが侵入してくると
真っ先に駆けつけて抗菌物質を放出して菌を殺してくれますが、
このとき同時に活性酸素も放出します。
好中球やマクロファージなどの免疫細胞が集まって
病原菌などを排除している場は炎症が生じている場ですが、
病原菌が死んでしまえば好中球もその場から居なくなりますので、
炎症も一過性です。
しかしながら、病原菌がなかなか死なない場合や、
あるいはアスベストのように免疫細胞では処理できない場合は
炎症が治まらず、慢性化してしまいます。
そのような場合は活性酸素の放出が長期的に継続しますので、
それによる悪影響も長期化し、
局所細胞のDNAが傷ついて、
ガン化につながる可能性が高まります。
放射線や紫外線はDNAに直接ダメージを与えるだけでなく、
これらが細胞内を通過する際に活性酸素を作りだしますので、
二重にガン化の原因となります。
生体は、これら必然的に発生する活性酸素を
消去する機構を生まれつき持っています。
また、DNAの損傷が生じても
これを修復する機構も存在しますので、
DNAが傷ついたからといってすぐにガンになるわけではありません。
しかしながら、
生じる活性酸素の量とこれを消去する酵素との力関係、
さらには
慢性炎症のように
長期に局所が活性酸素にさらされる場合などでは、
細胞がガン化する確率が高くなります。
生体内で活性酸素を消去するメカニズムの多くは
生体に元々ある酵素などによるものですが、
ビタミンCやビタミンEに代表される食物由来の抗酸化物質も
大きな役割を果たしています。
ビタミンCは強力な活性酸素消去物質で、
水相での活性酸素の消去や酸化ビタミンEの再生など、
重要な役割を果たしています。
ヒトは大昔にビタミンCを合成する能力を失ってしまいましたが、
ビタミンCのような重要な物質が完全に食物に依存しているという事実は、
ビタミンC以外の食物由来の機能性物質もまた、ヒトの健康に大きな役割を果たしている可能性を強く示唆していると考えられます。
抗酸化機能を持つ食物成分
食品由来の抗酸化物質としては、ビタミンCやビタミンE以外にも、野菜などに含まれるポリフェノール類や、
魚肉などに含まれるアスタキサンチンのようなカロテノイド色素などがあります。
ポリフェノールの仲間には、お茶のカテキンに代表されるフラボノイド類、コーヒーに含まれるクロロゲン酸、ゴマのリグナンなどがあります。
味噌中にも強い抗酸化能が見いだされますが、
その多くは大豆イソフラボンによるものであり、一部は褐色色素のメラノイジンによるものであると考えられています。
大豆のイソフラボンには多くの種類がありますが、構造の違いによって活性酸素消去能が異なります。
大豆麹乳酸菌発酵液で用いる液体大豆麹には、8-ヒドロキシダイゼイン(8-hydroxydaidzein)と呼ばれる
イソフラボン化合物が見いだされています。
試験管レベルでの実験で、この化合物は水相においてはビタミンC、油相においてはビタミンEに匹敵する、
強力な活性酸素消去能を有している事が分かりました。
特筆すべき点は、ビタミンCは水相でしか働かず、ビタミンEは油相でしか働かない一方で、
8-ヒドロキシダイゼインは水相でも油相でも同じように働くという事実です。すなわち、
8-ヒドロキシダイゼインのみでビタミンCとビタミンEの働きを同時に行う事ができる可能性がある事を示唆します。
抗酸化機能に関する参考文献
●抗酸化物質 二木鋭雄編 1994 学会出版センター
●酸化ストレス 吉川敏一編 2001 医歯薬出版(株)
●酸化ストレス・レドックスの生化学 谷口直之編 2000 共立出版
●活性酸素測定マニュアル 浅田浩二編 1992 講談社
●SODと活性酸素調節剤 大柳善彦 1989 日本医学館
●酸化ストレスと心血管疾患 筒井裕之編 2007 医歯薬出版(株)
●老化予防食品の開発 吉川敏一監修 1999 シーエムシー出版
●活性酸素の話 永田親義 1996 講談社
●生命にとって酸素とは何か 小城勝相 2002 講談社